STAR SHIP GIRL YAMAMOTO YOHKO / SIDE STORY

1-04:コンビネーション


 まどかの乗るTA−25は、ヴェイパーシールドという優れたバリアーを装備している。だけど、シールドを展開していられる時間には限界があるし、一度限界が来るとジェネレーターを冷却する間、全くの無防備になってしまうという欠点もある。
 どうやら、まどかはその無防備なところを攻撃されたみたいだった。
 探知妨害が解除され、クリアな映像でTA−25を見たとき、あたしは背中に寒気が走るのを感じた。
 なんと、艦首のフロントウィング状構造物が、ごっそり無くなっていたんだ。
 そこには、インパルス砲と相転移炉、そしてTA−25の場合はヴェイパーシールドジェネレーターも取り付けられている。それが失われた今、TA−25の戦闘力は激減しているはずだ。とてもまともに戦えないだろう。
「洋子! あんたも、あのマゴロックス野郎には気を付けなさいよ!!」
 知らない単語が混じっているけど、とにかく忠告してくれているのはわかる。
「わかってるって。誰にケンカ売ったか教えてあげるわよ!」
「そう願いたいものね」
 まどか、戦線離脱。これで、こっちはあたしと綾乃の二人だけになってしまった。
 戦力比は、二対一。初めは四対一だったのになぁ。
 今になって、アロイスの不敵な態度が決してハッタリじゃなかったことを痛感しても、後の祭りね。
「綾乃!」
「なんですか? 洋子さん」
「離れちゃダメよ、綾乃。ここで二人別々に行動したら、ヤツの思うつぼだわ」
「わかっています。アロイスさんは、一対多で戦うときのセオリーをきちんと守っておられますからね」
「セオリー?」
「そうです。つまり、一人ずつ相手にする、ということです。単純ですけど、これが最も効果的なんですよ」
 なるほどね。
「ですけど、私たちが連携して戦えば、必ず勝機はあります」
 綾乃はそう言って、にっこり微笑んだ。
「NA−01、接近中です」
 アソビン教授の報告に、にわかに緊張感が高まる。
「私が相手をします。洋子さんは隙を突いて攻撃を仕掛けてください」
 そう言い置いて、綾乃はTA−27を勢いよく加速させた。

 それからたっぷり三分ほどの間、あたしは綾乃の見事な操艦に見とれていた。
 綾乃は、重力アンカーと姿勢制御スラスターを駆使しつつ、軽やかな動きでNA−01を翻弄している。
 NA−01も懸命に応戦しているけれど、なかなか攻撃が当たらない。確かに、あんなに至近距離でつきまとわれると、相当やりづらいものがあるだろうな。剣の間合いに入り込んでしまっているみたいだしね。
 そんなこんなで暇を持て余したあたしは、ローソンに通信をつないでみた。
「ちょっと、何かいいアイデアはないの? 非常識な発想では、ローソンだって負けてないハズでしょ」
「あのなぁ、敵がちょっと変わった形をしているからって、僕に対策を求められても困るよ。……だけど、ヒューマノイド型戦艦というのは、なかなか素晴らしい発想だな。機体が人型をしていれば、それだけ思考制御のイメージフィードバックもスムーズにいくはずなんだ。何せ、プレイヤーの普段の体性感覚に限りなく近づくわけだからね」
「あのね、誉めてる場合じゃないでしょ」
「うん?」
「だからぁ、対策よ。対策!」
「あ、ああ、そうだったね。まぁ、構造的に脆弱な部分、つまりは関節に相当する部位を狙っていくのがベターだろうな」
 結局、そういうありきたりの結論になるワケね……。
「ミス・ヨーコ。TA−27の動きに変化があります」
「!」
 あたしは、アソビン教授の声に、慌ててホロビューへ意識を戻した。
 ちょうど、TA−27が大きな弧を描いてNA−01との間合いを開けたところだった。
 そして、すぐさまNA−01に向かって突進していく。当然、このまま頭から突っ込めば、NA−01の剣の餌食になってしまう――なんてことは、火を見るより明らかだ。
 それがわからない綾乃ではないはず。
 あたしは、そう思って、いつでも撃てるようにトリガーに指をかけた。
 次の瞬間、あたしは目を疑った(って、何度目かしらね?)。
 TA−27がNA−01の間合いに入る直前、突然弾かれたように速度を上げたんだ。一瞬、何かの間違いかとも思ったけど、そうじゃなかった。TA−27は確かに速度を上げ、NA−01の刃をかわして、その脇をすり抜けていった。
 NA−01も、その動きには対応しきれず、振り下ろした剣が大きくスカってしまう。
「もらったぁ!!」
 あたしは自分でも意識しない内に、エヴァブラックのトリガーを引いていた。
 ダテに格ゲーをやり込んでいるワケじゃない。大技の後の硬直という、おいしいチャンスを逃すわけにはいかないっての。
 すぐさま、高温高圧のプラズマ弾がNA−01に殺到する。
 そして、命中!
 表面の装甲が砕けて、破片が辺りに撒き散らされる。そして、姿勢を崩したNA−01の背後に、今度はTA−27から放たれたインパルス砲が着弾。結局、それが致命打になって、NA−01の攻撃はぴたりと止んだ。あまつさえ煙まで噴き出す始末。
 ……あれ? そんなに安普請には見えなかったんだけどな。
 あまりに呆気ない結末に納得しかねたあたしは、アソビン教授に質問をぶつけてみた。
「ちょっと、どういうこと? そんなにボロい艦だったの?」
「いえ、違います。TA−27から受けていた重力アンカーの潮汐効果により、表面付近の構造材に過負荷がかかっていたため、金属疲労を起こしたものと推測されます。そのため、強度がかなり低下していたようです」
 う〜ん、さすが綾乃。そこまで考えていたとはね。
「凄いじゃない、綾乃」
「いえ、洋子さんがいたからこそできたことです」
 そう言って、綾乃は謙遜する。
「それはそうと、綾乃。さっき、突然TA−27が加速したけど、アレはどうやったの?」
「あ、あれですか? 重力アンカーで船体後方に斥力場を形成して、その反発力で一気に加速したんですよ。以前から、もしかしたら、とは思っていたので、ちょっと試してみたんです」
 絶句。
 ……重力アンカーなんて、掴んだり、投げたりするだけかと思っていたら、そんな使い方もあったなんてね。よもや、即席の斥力場ターボにもなろうとは……。
 でも、ローソンはきっと大喜びだろうな。
「いやぁ、素晴らしかったよ! 特に綾乃君。重力アンカーを応用して加速に利用するとは、素晴らしい発想だ。艦のポテンシャルを存分に発揮してくれて、エンジニア冥利に尽きるよ!」
 ほら、やっぱりね。
「ミス・ヨーコ」
「何? アソビン教授」
「NA−01のプレイヤー、アロイス・フィンレイより通信が入っていますが」
 今更、何の用だろ?
「……ま、いいか。繋いでちょうだい」
 視界の片隅に、アロイスの顔が浮かび上がる。
「なぁに?」
「今回は、僕の完敗だ。さすがはヤマモト・ヨーコさん、と言うべきなのかな?」
「そうでもないわ。今回の立て役者は、むしろ綾乃の方ね」
 素直なあたしは、そう答えてやった。
「そうか……」
 黙り込むアロイスの顔を見ながら、あたしは気になっていたことを訊いてみた。
「どうして、NA系列の艦をもっと揃えなかったの? あんなに強かったのに」
 その質問に、アロイスは渋い表情をつくる。
「コストが高いんだよ。何しろ、これ1隻でTERRAの標準戦艦4隻分に相当するだけの建造費がかかっているんだ。機構が複雑だから、維持費もバカにならない。そう、おいそれと造れるものじゃないんだよ」
「ふぅん……。でも、一応言っておくけど、今回の戦闘でNA−01が使い物にならないと判断するのは早計だと思うわよ。今回は相手が悪かったけど、TA−2系列艦を2隻も戦線離脱させているんだからね」
「……わかった。パ、いや……提督には、そう伝えておくよ」
 アロイスはそう言って、微苦笑した。
「なんだか、あんたも苦労性みたいねぇ」
 思わず、そんな言葉があたしの口をついて出る。
 まぁ、何となくそんな気がしたものだから。何となく、ね。でも、図星だったみたい。
「ははは……。まぁ、いろいろとね」
 乾いた笑い声をたてつつも、アロイスは困ったように口ごもった。そりゃ、あんな連中相手にしていたら、身が保たないかもね。アロイスって、ちょっとスカしてるけど、礼儀をわきまえているみたいだから、ああいう自分の好き放題にしかやらないような人間を相手にするのは疲れるだろうな。
 え? あんな連中って誰かって? 覆面提督に、シルヴィーに、テンツァーよ。知らなかったら、文庫本を買ってちょうだい。
「それはともかく、今回の戦闘ではいろいろと教えられたよ。また、手合わせできる機会を楽しみにしている」
「あたしも楽しみね。今度は、どんな非常識な艦に乗るのかしら?」
「さぁ? 見当もつかないな……。それでは、失礼するよ」
 そう言うと、アロイスは通信を切った。メインホロビュー上では満身創痍のNA−01がゆっくりと回頭して指定戦闘空域を去っていくところだった。
「TERRAの勝利が認定されました」
 アソビン教授がそう教えてくれた。
 いつのまにか、ホロビューには戦闘終了を告げるメッセージが瞬いていた。


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