ガイロス帝国軍レッドラスト北部基地
「ご苦労だった、ノイマン大尉」
基地司令用の執務室で、リヒトホーヘンは一連の事件の経過報告を受けていた。
「アトラスモルガを確保できなかったのは残念だ。だが、大尉の小隊が共和国軍のゾイドと交戦したという事実。これは収穫だ。レブラプターと酷似していたと言ったな?」
「はい」
ノイマンは神妙な面持ちで答えた。
「交戦時に収集できたデータは、研究班に渡して、現在解析中です。私はあくまでも現場の専門家でして、技術面には強くないですが、明らかにこれまでの共和国軍ゾイドとは違っていました。もしかしたら、レブラプターと同じ素体なのかもしれません」
「そうかもしれんな。だが、ここで言っても始まらない。とにかく、今は解析結果を待とうじゃないか」
リヒトホーヘンは椅子から立ち上がり、窓に歩み寄った。
外は、血のように赤い夕焼けだった。
アトラスモルガが逃走したときも、こんな空だったな……。
リヒトホーヘンは再度ノイマンに向き直ると、机の引き出しから一枚の書面を取りだし、ノイマンに手渡した。
「これは本国からの辞令だ。今後、大尉にはレブラプターの運用法を研究してもらうことになる。今回の経験を存分に活かしてくれ」
「了解しました」
辞令を受け取ったノイマンは見事な敬礼をしてみせた。
「よろしく頼む」
そう言って、リヒトホーヘンも敬礼を返した。
※
ヘリック共和国陸軍第四工廠
任務を終えたエレナ・セーガン大尉は一時的に本国に戻っていた。
だが、それは休暇ではなく、あくまでも仕事だった。
アトラスモルガの唯一の残骸であるブラックボックスは、研究チームの手によって検証が進められていた。そこから得られたデータが今後のゾイド開発に一石を投じるのは間違いないことのように思われたが、今のエレナには殆ど関係のないことだった。
今、エレナは共和国軍の小型ゾイドを生産する軍事工場にいた。
生産ラインをまたぐキャットウォークに立ち、エレナはラインから次々と吐き出されてくるゾイドの列を見下ろした。
濃紺とシルバーで塗り分けられた小型ゾイドの名は『ガンスナイパー』といった。
エレナたちが前線で運用してきたバシリスクの機体設計と実戦稼働データに基づいて開発された新型機で、完全ではないが『オーガノイドシステム』をも搭載しているという意欲作である。近接格闘から長距離における精密射撃まで、幅広いレンジでその性能を発揮するオールラウンドプレイヤーとして、軍の期待を集めている新鋭小型ゾイドだった。
ガンスナイパーの実戦配備に伴い、バシリスク小隊は解散が決まっていた。
その次の辞令を受けるためにエレナは帰国していたのである。
「大尉!」
キャットウォークの端から、マクレガーが駆けてきた。後ろには、ブラッドレイの姿も見える。
久々に前線を離れた彼らの表情は明るい。
「また、大尉と一緒に戦えるんですね。これからもよろしくお願いします」
そう言って敬礼するマクレガーの隣で、ブラッドレイも姿勢を正す。
「今度は短い期間のようですが、何卒よろしくお願いします」
「ふふっ。こちらこそ、よろしくね。さて、それじゃ、私たちの機体を受領しに行きましょうか!」
「了解!」
「了解!」
エレナの凛とした掛け声に、ブラッドレイとマクレガーは声を揃えて敬礼していた。
※
時は、ZAC2100年。
エウロペ大陸で繰り広げられる惑星Ziの二大国家による総力戦は、一向に終息する気配をみせていなかった。
戦乱に終止符が打たれるためには、更に多くの血を必要としていたのである……。