ZOIDS SIDE STORY

-- DEPTHCORN --


 ZAC2100年、夏。
 ガイロス帝国海軍は新型水中戦闘用ゾイドの開発を決定。
 コード名『アインホルン』と呼ばれたそのゾイドは、開発期間短縮のために既存のゾイドの外装パーツを流用するなど、異例の急ピッチで開発が進められた。
 そして、開発開始より僅か二ヶ月で試作一号機をロールアウトするに至る。
 制式名称は『デプスコーン』と決定され、その年の秋には早くもエウロペ大陸北方の海域において実用評価試験が開始された――。


■ ■ ■ ■ ■


「中尉、どうです? 今回のゾイドは」
「ん? まぁまぁだな」
 デプスコーンから降り立ったテストパイロットのラルフ・エレンベルガー中尉は、駆け寄ってきた整備兵の問いかけに、そう応えた。
「まぁまぁ、ですか?」
 失望の色を浮かべる整備兵を見て、エレンベルガーは慌てて言葉を付け足す。
「ああっと。まだテスト段階だからな。性急な結論は避けておきたいってことだ。そんなに落胆しないでくれよ」
 エレンベルガーがそう言うと、整備兵の顔にも少し明るさが戻ったようだった。
「……エレンベルガー中尉。ウチの若いのをからかってもらっちゃ困るぜ?」
 出し抜けに声をかけてきたのは、テスト部隊の整備兵を束ねる整備班長のフランツ・ミュラー中尉だった。エレンベルガーとは士官学校の同期生。操縦と整備という異なる分野を選んだものの、何かと同じ任務につくことの多い、親しい間柄だった。
「フランツ、濡れ衣はよしてくれ。俺はただ……」
「はは、わかってるって。マジになんなよ」
「それなら、最初から言わないでくれよ」
「すまん。ラルフが生真面目な性格なのは承知しているさ。それより、本当のところはどうなんだ? あの、デプスコーンってヤツぁ」
 真顔でそう聞いてくるミュラーの態度に、エレンベルガーは肩をすくめた。
「やれやれ、俺はならしをしただけなんだぜ?」
「いいじゃないか。聞かせろよ」
「……そうだな。まぁ、悪いゾイドじゃないよ。今日、乗ってみた感じだと、ポテンシャルも高いみたいだしな。だけど、あのじゃじゃ馬さ加減にはちょっと辟易したな」
「じゃじゃ馬?」
「ああ。操縦桿を動かしても、なかなか言うことを聞かないんだ。何というか、自我が強いって感じだな。もう少し従順な個体を選べなかったのか?」
「へへ、弱気な発言だな。そういう荒くれを乗りこなしてこそのゾイド乗りだろが。それに、ああいう荒っぽい性格の個体を選別したのは、上層部の意向なんだぜ。闘争本能に優れた個体を選んで戦闘用にチューンするのが、最近のトレンドよ。ジェノザウラーなんか、そうだったろ?」
「それは、陸軍のゾイドだろう」
「はは、ゾイドはゾイドだ。同じことじゃねえか」
 そう笑って、ミュラーはエレンベルガーの背中を勢いよく叩いた。
「ま、頑張れよ。テスト期間はあと一週間予定されてる。その間に、必要なデータを集めちまわないとな」
「了解だ。任務はちゃんと果たしてみせる」
「その意気だ、中尉。期待してるぜ」
 エレンベルガーの肩をポンと叩き、ミュラーは立ち上がった。
 デプスコーンに取り付く整備兵たちの群れへと戻っていくミュラーの背中を見送ると、エレンベルガーは疲れた身体で発令所へ向かった。

 エレンベルガーたち、デプスコーンのテストチームは巨大な潜水母艦ゾイド『ジャイアント・ホエール』に乗り込み、評価試験を行っていた。
 ジャイアント・ホエールはナガスクジラ型の巨大ゾイドで、水中戦用ゾイドの効率的な運用を目的として帝国海軍が開発していた新型ゾイドであった。建造コストがかさむため、まだ1体しか存在しないが、今後の状況次第では量産化も考えられているのだという。
 デプスコーンの評価試験に沿岸基地を使わなかったのは、機密保持が第一の理由とされているが、少しでも短い期間で多くのテストをこなしたいという司令部の切実な要求があったことを見逃すことはできない。それほど帝国海軍の戦力は磨耗し、早急な建て直しが必要だったのである。
 報告を終えたエレンベルガーは、ジャイアント・ホエール内の士官用個室でベッドに身を投げ出していた。
 慣れぬ新型ゾイドに乗った初日というのは、いつも疲労する。
 ゾイドは生き物だ。
 装甲をつけ、コンバットシステムを搭載し、武装し、外見は皆同じに見えたとしても、その中身は微妙に違う。個体差――つまり、個性があるのだ。その個性に順応し、ゾイドを乗りこなしてこそ、優れたパイロットたりうるのだが、ロールアウトしたばかりの新型というのは概して素体が持つ癖が抜けておらず、扱いにくいことが多い。百戦錬磨のパイロットでも、新型機に慣れるには最低一週間はかかるというのがパイロットたちの常識であった。
 だが、テストパイロットという職種は違う。
 彼らに求められるのは、即座に新しいゾイドの癖を掴み、順応し、その性能を引き出し、そして内在するであろう問題点を明らかにすることなのだ。
 エレンベルガーは士官学校を卒業して以来、ずっとテストパイロットとして職務を全うしてきた。そんな彼が、今までに知らなかった疲労感に満たされていた。
 ――ヤツは、ただものじゃない。
 それがエレンベルガーのデプスコーンに対する率直な感想だった。
 コントロールしようとすればするほど、それを振り切って動き回ろうとする。
 今日のテストで、エレンベルガーはずっと全力でデプスコーンを駆っていた。たかだか40分程度のテスト航行で疲労困憊しているのは、それが原因だった。
 ――あるいは……。
 と、エレンベルガーは思い直してみる。
 もしかすると、自分の乗り方は間違っているのではないか?
 もっとゾイド自身に任せてみたほうがよいのではないか?
 色々な考えが浮かんだが、ともかく今はぐっすり寝て体力を回復させることだ。
 試すのは、明日でいい。
 そう考えて、エレンベルガーはゆっくりと瞼を閉じた。

 一晩たっぷりと寝て元気を取り戻したエレンベルガーは、食堂での朝食をすませると、そのままドックへ直行した。
 評価試験二日目の今日は、午前中からテストが予定されていたからである。
 パイロットスーツを着込み、デプスコーンのコクピットに収まったエレンベルガーは、手順どおりに計器のチェックを行い、準備を整えた。
 が、いつまでたっても発艦の指示が出ない。
 既にドック内への注水が終わっているのにもかかわらず、である。
 痺れを切らしたエレンベルガーはこちらから呼びかけることにした。
「こちら、エレンベルガー中尉だ。コントロール、聞こえているか? 一体いつまで待たせるつもりなんだ」
 そう叫んでみたエレンベルガーだったが、返ってきたのは思いもよらぬ答えだった。
「申し訳ありません、中尉。テストを予定していた海域に共和国軍のものと思われる水中ゾイドの反応を捉えたんです。現在、対応を検討中ですので、もうしばらくお待ちください」
「共和国軍だって!? おい、どういうことだ。もう少し詳しい説明を聞かせてくれ」
「落ち着きたまえ、エレンベルガー中尉」
「艦長!?」
「我が方のソナーが敵の水中ゾイドを探知した。つい数分前のことだ。おそらく向こうもこちらを捕捉しているだろう。我々としては、テストを中断してこの海域から撤退するかどうかを検討している……」
 ジャイアント・ホエールの艦長であるフォン・コッホ中佐が言い終えるのを待たずに、エレンベルガーは口を開いた。
「そんな呑気なことでいいんですか? 共和国軍の水中ゾイドといったら、ハンマーヘッドだ。この鯨の速力じゃ、とても逃げ切れませんよ。こちらが安全圏に移動する前に、追いつかれてしまう」
「だが……」
 コッホが困惑するのも構わず、エレンベルガーは訊いた。
「彼我の相対距離はどうなってるんです?」
「……先程よりも縮まっています」
 そう答えたのは、コントロールルームの管制官だった。
「なら、迷うことはない。奴らの狙いはこの艦だ。……デプスコーンを出撃させてください」
「何だと、中尉!? そんなことは許可できない。そのゾイドはあくまでもテスト用だ。魚雷も積まずに何ができるというのかね」
「じゃあ、黙って敵さんに撃沈されろというのですか? それに、そもそもこの海域には実用評価試験で来ていたはずです。目の前に本物の目標があるんだ。これ以上の『実用』テストはありませんよ。それとも、敵と遭遇する覚悟もなく、こんな物騒な海域にまで出張ってきたんですか」
 そこまで言われてしまうと、コッホも言い返しようがなかった。
「いいじゃないスか。行かせましょうよ」
 突然、そんな声がコントロールルームに響いた。
「ミュラー中尉……」
「エレンベルガー中尉が折角やる気になっているんです。それに水を差すのはどうかと。それに、魚雷がなくとも、デプスコーンには衝角がある。そいつの性能を試すには、いい機会ではありませんか」
「む、むぅ。確かにそうだが……」
 なおも逡巡するコッホに、エレンベルガーが止めをさした。
「艦長。もしかして、帝国海軍工廠が作り上げたデプスコーンには、ハンマーヘッドの相手が務まらぬと仰るのですか?」
 その一言に、コントロールルームに居合わせた誰もが息を呑んだ。
 明らかな挑発だった。
 エレンベルガーの苛烈な一面をよく知るミュラーだけは笑いを噛み殺すのに必死だったが、他のクルーたちは黙ったまま艦長であるコッホを見守るしかなかった。
「……わかった。出撃だ、中尉」
「了解です!」
「だがな、付け加えておくが、これはテストだ」
「は?」
「必ず生還せよ。これは命令だ」
「……ご期待に添います!」
 エレンベルガーは、にやりと笑った。

 注水されたドックの床が割れ、大きな口を開く。
 そこは既に水深500メートルの海中であった。
「中尉。敵ゾイドの最新の位置情報をデプスコーンの戦術システムにインプットしました。発艦後は通信が途絶しますので、デプスコーンのセンサーからのデータ入力で情報を逐次アップデートしてください」
「わかった」
 エレンベルガーはゆっくりと沈降していくデプスコーンの操縦桿を握りながら、そう応えた。
「ご武運を」
「ああ、必ず戻ってくるよ」
 そう応えながらも、既にエレンベルガーの心はデプスコーンと共に海中にあった。
 デプスコーンの躯がドックから完全に出た。
「エレンベルガー中尉、発進します!」
 その叫びと共にデプスコーンは一気に加速した。
 イッカク型ゾイドであるデプスコーンは、前方に突出した衝角が特徴的なシルエットを生み出す中型ゾイドだ。このクラスでは比較的大き目のボディを持ち、全長は共和国軍のハンマーヘッドを凌駕していた。
 その巨躯が生み出す推進力を胴体下部に追加された電磁流体推進器が補助し、更に非常時には全身に装備された計5基のイオンブースターが駆動する。全ブースターを最大出力で稼動させた最大加速時には、時速100ノットに達するとされていた。
 その桁外れな速力を持ってすれば、ハンマーヘッドを捉えることは容易かった。
 程なくして前方監視モニターに敵影が表示される。
 アクティブ、およびパッシブソナーの音響探査結果を映像化したものだ。
「目標確認。ハンマーヘッド、3。これより戦闘に入る」
 エレンベルガーは独りごちると、戦術システムのモードを切り替えた。
 モニター隅の表示が「NORMAL」から「FIGHTING」に変わる。
 と同時に、デプスコーンの体内に人工ホルモンが注入され、神経や筋肉の反応速度が加速される。これもデプスコーンに試験導入された新機軸のシステムのひとつで、生物学的な手法によってゾイドの能力を最大限に引き出す戦闘支援システムであった。
 それにより、デプスコーンは更に鋭くスピードを上げる。
 既にメーターは70ノットを示している。これはハンマーヘッドのスペックを上回る数字だ。もちろん、まだブースターは使っていない。
 敵パイロットの慌てふためく姿を思い浮かべ、エレンベルガーは薄い笑みを口元に浮かべた。
 だが、それも一瞬のことで、すぐに真剣な表情が取って代わる。これから始まるのは戦いだ。テストではない、本物の実戦。笑っている余裕など無いのだ。
 ハンマーヘッドが魚雷を発射した。
「かわせッ!」
 エレンベルガーは咄嗟に叫んだ。
 デプスコーンは目の醒めるような機動で魚雷を回避すると、そのままハンマーヘッドに向かって突っ込んだ。
 これにはエレンベルガーも肝を潰した。
 しかし、それ以上にハンマーヘッドのパイロットのほうが狼狽しただろう。
 撃ちこまれた魚雷を回避して、そのまま撃ってきた相手に向かっていくなど、通常の海戦の戦術にはない行動だ。デプスコーンの持つ野性的な攻撃本能をあえて抑えなかったエレンベルガーの操縦が、そんな非常識ともいえる行動を生み出した。そう言うこともできるかもしれない。
 と、そのとき、デプスコーンの背後で魚雷が爆発した。
 猛烈な水圧が背後からデプスコーンに牙をむく。水中での爆発に伴う衝撃波は、大気中のそれよりもはるかに強烈な破壊力を伴うのだ。
「くそ、魚雷を自爆させやがったな」
 エレンベルガーは忌々しげに舌打ちしたが、ここで何を言っても仕方がない。
「……ええい、ちくしょう。ぶっ飛ばせ!」
 居直りに近い感情と共にスロットルを一気にレッドゾーンまで叩き込み、最大加速をかける。たちまちMHD推進機関が低い唸り声を上げ、デプスコーンを前方へ押し出した。
 速度計を悠長に見ている暇などなかったが、おそらく100ノット近くは出ていたのではないか。そんな感覚だった。
 水中衝撃波に揺さぶられながらも最大速力で水中を疾駆し、相対距離を一気に詰めたデプスコーンの衝角がハンマーヘッドの胴に深々と突き刺さる。その衝撃に耐え切れなかったハンマーヘッドの装甲が砕け散り、その内にある金属の体躯が剥き出しになる。
 次の瞬間、激しい電撃がハンマーヘッドの全身を貫いていた。
 これが、デプスコーンの格闘戦用兵装『スパークラム』である。
 高い運動エネルギーによって目標とするゾイドに衝角を突き刺し、その体内に高圧電流を流し込むことで神経と筋肉を麻痺させて戦闘不能に陥らせるという武器である。しかも、そのサイズはデプスコーンの全長の3分の1以上を占めるという巨大さだ。
 その狙いどおり、高圧電流によって体内の神経回路が麻痺したハンマーヘッドは完全に硬直し、身動きが取れなくなった。
 動きを止めた敵を置き去りにして、なおも加速を続けるデプスコーン。その背後で、自らが自爆させた魚雷による乱流に翻弄されるハンマーヘッド。
 ――いける!
 緒戦の結果にそんな確かな手応えを感じ、エレンベルガーは周囲を見回した。
 魚雷の爆発の影響で海中は引っ掻き回され、ソナーや流体センサー、磁気探知機といった各種センサー類も充分に機能しているとは言い難かった。が、それは敵も同じこと。
 注意深く警戒を続けるうちに、再び残る2体のハンマーヘッドを捉えることができた。
 おぼろげな敵影を映すサブモニターを見つめていたエレンベルガーは、ふとある作戦を思いつく。
「……ちょっと無茶だけど、やってみる価値はあるか……。付き合ってくれよ、デプスコーン」
 そう囁くと、エレンベルガーはゆっくりとデプスコーンを転進させた。
 その進行方向には、いまだ爆発の余波から抜け出せぬ、泡立つ領域があった。

「くそ、どうなっているんだ?」
 ハンマーヘッドに乗るマイケル・ゴードン少尉はそう毒づいた。
 帝国の大物を見つけたと思い、勇躍して馳せ参じたというのに、突然進出してきた敵の水中ゾイドにいきなり僚機を沈められてしまったのだ。とても平静ではいられない。
 作戦行動中の水中ゾイド同士の交信は禁止されている。
 生き残っているトム・マッケイ少尉がうまくやってくれればよいが、あまり過剰な期待は禁物だった。
 海の中では自分の力しか頼れるものがないのだ。
 そう気を引き締めなおしたゴードンに水を差すかのように、突如としてコクピット内に警報音が響いた。
「なんだ?」
 そう呟いてから、戦術モニターを一瞥したゴードンは青ざめた。
「バカな。トムが沈められた!?」
 そう言いながら、ゴードンは形容しようのない不安に襲われるのを感じていた。
 正面モニターには、不鮮明ながらも、確かに敵のゾイドの姿が映し出されていた。
 そのシルエットにゴードンは目を見開いた。
「……!!」
 前方に長く突き出した衝角を認め、それが戦友を葬り去った忌むべき武器であることを即座に理解した。
 なぜか、手が震えた。
 シンカーを相手にしていたときには忘れていた感覚だった。
 恐怖。
 畏れ。
 もしかしたら、絶望。
 ゴードンの本能が、明らかに相手は格上なのだと激しく警鐘を鳴らしていた。
「ち、ちくしょう……」
 粋がってみようとしても、声にならない。
 自分が弱い人間だということに気づき、ゴードンは愕然とした。
 モニターの中で敵影がどんどん大きくなっていく。
 そのことを認識しつつも、既に彼の身体はピクリとも動かなかった。
 5秒後、ゴードンとその乗機であるハンマーヘッドの命は深海に潰えた……。

「やったか……」
 センサーの効かない泡立つ水域を抜けての奇襲攻撃は、エレンベルガーにとっても大きな賭けだった。
 だが、エレンベルガーとデプスコーンは、その賭けに勝った。
 初の実戦で3体のハンマーヘッドを撃破。
 上出来以上に上出来な戦果だ。
 何せ、このデプスコーンは試作機なのだ。一発の魚雷も搭載せず、ただ一本の衝角による格闘戦のみで共和国軍のハンマーヘッド小隊を撃破したという事実は、まさしく快挙と呼ぶにふさわしいものだった。
 帝国海軍史に長く記憶されるべき出来事であると共に、デプスコーンの圧倒的なポテンシャルを示すこれ以上ない事例と言えるだろう。
 だが、エレンベルガーの気持ちはそこにはなかった。
 この戦闘を通じてデプスコーンと意思を通じ合わせることができた。
 そのことこそが、彼にとって最も大きな成果だった。
 軍人として初の実戦が彼にもたらしたものは、ひとつの目的に向かって人とゾイドが力を合わせることの意義深さだった。
「帰ろうか」
 そう呼びかけてみる。
 コクピットのシートを通して、デプスコーンのコアの鳴動が伝わってきた。
 それは不思議と心落ち着くものだった。
 ――昨日は荒々しいだけのゾイドだとばかり思っていたのにな。
 エレンベルガーは苦笑し、そして水中通信用のマイクを取り上げた。
「こちら、エレンベルガー中尉だ。敵水中ゾイド部隊と交戦。全機撃破することに成功した。これよりジャイアント・ホエールに帰投する」


■ ■ ■ ■ ■


 実用評価試験で極めて優秀な結果を残したデプスコーンだったが、その後の戦況はガイロス帝国にとって思わしいものではなかった。共和国軍の猛攻により帝国軍がエウロペ大陸からの撤退を余儀なくされたこともあって、結局デプスコーンが実戦において活躍の場を与えられることはなかった。
 しかも、翌2101年初頭にはウオディックの量産が開始され、デプスコーンの配備計画は大幅に縮小。帝国海軍の主力の座はウオディックに明渡されることになる。
 現在は支援機として少数が配備されるのみのデプスコーンであるが、実際に搭乗したパイロットたちの評価は高いという――。


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「デプスコーン」は、第14回「次世代ワールドホビーフェア」ゾイド改造コンテストで「優秀賞」を受賞しました。